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Side story of "Chuya's Cooking diary"
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カナリア沖を北上するイングランド籍商用サムブーク"Goat's Aria"号はその出港以来最大の危機に見舞われていた。

船員の半数が栄養失調で倒れている最中、一隻の武装船が追走してきている事が判明したのだ。
船尾から追走する不審船を望遠鏡を覗き込んでいたエドガー・アラン船長は舌打ちを一つ打つと、僕の方を振り返る。


「…マリア」

「はい」


「司厨長に「マズイ」と伝えてきてくれ」

「了解」


間を入れずに返事をしたものの、正直、一番聞きたくなかった命令だ。
今は、今だけは、マズイ。

きっと、船長も言いたくなかった命令なのだろう。ため息と一緒に、ねぎらいの言葉を投げてよこす。


「すまんな」

(まったくだ)


僕は、苦笑をかみ殺し、ハッチを目指して駆けていく。
その背中を追い越すように、打ちならされる鐘の音と、彼の怒号が甲板に響き渡る。


「メイン・アッパー・トップスル開け!」

「ヨーソロ!!!!」

「第三ワッチを叩き起こせ! ミズンも開くぞ!」

「ヨーソロ!!!!」


第三ワッチは午後に交代したばかりだけれど、第二ワッチは、栄養失調でほぼ全滅。今、動ける戦力は、彼らしか残っていない。

だが、第三ワッチが加わったとしても、果たして総帆展帆での航走ができるのか。
多分、フォアとメインで精一杯だろう。


(なんてタイミングの悪い…)


船長の伝言を司厨長に伝えるべくハッチをくぐりながら、僕は十字を切らずにはいられなかった。

その十字は、追い来る船を憂いたものか。それとも、これから向かう司厨室でのやり取りを憂いたものか。
そのどちらに向けたものなのか、僕自身にも分からなかったのだけれど。




「くそっ…」

「司厨長」

「何だって、僕の船で…」

「司厨長」

「この僕の船で…!」

「司厨長!」

「うるさいな!何だってんだ!一体!!!」


司厨長が僕に気づいた(正しくは、怒鳴り声をあげた)のは、一心不乱にタマネギを刻んでいる彼に声をかけ続けて、5回目の事だった。

振り返った彼の瞳が真っ赤に充血していたのはタマネギのせいじゃない。
奥歯をギリギリとかみ締めている彼の表情は、普段の瓢げた彼のイメージからは想像ができないくらいに、怒りに満ちゝている。


(ふぅ、やっぱり、か…)


このGoat's Ariaのギャレーには、彼が──このEurosの世界で最高の調理師を自認する中也司厨長が──自ら立つ。

その船で、船員が栄養失調。
多分、これ以上ない屈辱なのだろう。


聞く前から彼の答える言葉が分かってるが、これも仕事だ。
平静を装いながら、声を継ぐ。


「後方から、武装船が追走してきます、船長が「マズイ」と伝えて欲しい…」

「知るかっ!!!!」


想像通り、全てを言い終える前に彼の全力の怒号で僕の言葉は遮られた。


「エドガーに言っとけ!逃げ切れないなら、積荷でも金でも呉れてやれ!!」

「ハイ!」


話は終わりだ。
これ以上やばいことにならないように、さっさと退散するのが吉、と扉に体を向けたところに、司厨長から声がかかる。


「まて」

「ハイ!」

「鶏は、駄目だ。これから使う」

「ッハ…」

「ハイハイ、うるせぇ!とっとと行け!」


僕は、反射的に「ハイっ!」といいそうになるのを堪え、踵を打ち鳴らす礼だけを取ると、司厨室を飛び出した。

扉がしまる間際に、また、彼の呻きが漏れ聞こえる。


(見てやがれ…一瞬で…)


「……」



扉にもたれかかり、天井を仰ぎ見ると、僕は、またタマネギと格闘しているであろう司厨長の背中を思い、呟いた。


「……ごめんなさい。」





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中也
大航海時代Onlineの世界を遊びまわるぐうたら調理師・中也の落書き場所。

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