忍者ブログ
Side story of "Chuya's Cooking diary"
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「マリア、こいつをレヴィローズさんの"Sablier de temps"号まで届けてくれ。」


竈から取り出した平底の陶磁器をあごで指し示すと、司厨長は調理道具の片付けにとりかかる。どうやらスポンジケーキが焼きあがったところらしい。


「はい、あ、片付けはやりますから休んでてください」

「へーき、へーき。それより後ろからバスケットだして」

「はい」


バスケットを取り出しながら作業台に目をやると、なんだか香料や調味料の量が多い。
<目と腕で作るシンプルな美味しさ>が信条の彼は、こういう凝った味付けを嫌うはずなのだが…。


「これ、スポンジケーキ、ですよね…。なんか、珍しいですね、そんなに調味料だの香料だのを用意するなんて」

「お、いい着眼点だ。」


こういう「気づき」を司厨長は喜ぶ。気づく事=その前段階までの技術を自分の物に出来ている証、なんだそうだ。


「ちょっとね、仕掛けをしてみたんだ」

「仕掛け…」


ケーキの表面をみると、焼き色が縞模様になっている。
焼きムラにしては、縞模様の並びが綺麗過ぎるし、司厨長がそんなデキのものをつくるはずもない。。


(だとすると……)

「…もしかして、生地の種類を変えているのですか?」

「ご名答。ちょっとづつ違う味になるようにね」

「なるほど…」


(ふぅ…、わかってはいるけどかなわないね、やっぱり)


シンプルに見えて豪勢。へそ曲がりな司厨長っぽいお祝いの仕方だ。見えないように苦笑もらし、ナプキンを敷いたバスケットに器をそっと入れる。


「で、司厨長。カードは?」

「カードって?」

「レヴィローズ提督宛ってことは、ミス・リオ受賞のお祝いですよね。」

「うん」

「じゃあ、普通、「おめでとう」とかメッセージいれたグリーティングカードぐらいいれておくものじゃないですか?」

「んー、大食らいのナタルさんが相手なら、僕も「カクカクシカジカのありがたい調理品だから、味わって食え!」って書いておくけど、レヴィさんなら普通に味わって食ってくれるからいらないよ」

「いや、慶事の常識ってモンがあるだろって話をしてるんですが!」

「あの人も調理の心得があるひとだし、特別に作ったもんだってのは分ってくれるし、それで伝わるからいいよ。」

「はぁ…」


ため息をつくとナプキンをもう一枚取りだす。
バスケットの上にナプキンを被せ、その上から蓋をはめ込み密閉する。

料理だけじゃなくて、もうちょっと世辞的なことにも長けてくれれば、こんな海暮らしじゃなくて、宮仕えの調理師として富と名声はほしいままにできるだろうといつも思う。
まあ、そんなことをこのお気楽な調理師が望んではいないことは分ってはいるのだが…


「でだ、伝言も一緒にお願い。「食べる前にこれを刷毛で塗って、少し竈であっためてから食べて」って伝えて」


小さな小瓶を差し出してくる。


「はい、分りました。でも、これは?」


受け取った瓶を眺めるとトロリとした液体がいれられている。ケーキ用のソースだろうか?


「ちょとあけてごらん?」

「うわっ……」


瓶をあけたボクを、不思議な香りが包む。
甘い、目が眩むような強烈な甘い香り…


(バニラ…?いや、もっと甘い… 瓶の中に吸い込まれそうな… 甘い甘い香り……)



「へへ。いい匂いだろ?」


投げかけられた声に我に返ると、司厨長はニヤニヤと笑みを浮かべながら、ボクの顔を見つめている。


「はっ、はい…。これは…バニラですか?」

「多分、ね」

「多分?」

「うん、ほらソレ。」


司厨長は作業代に置かれたガラス製の細長い瓶を指差す。


「ああ、ロベルト本郷船長から巻き上げたバニラビーンズですね。」


その瓶の緑色の輝きに見覚えがあった。
リオデジャネイロのお祭りの際に、司厨長が彼からポーカーのかたに取り上げたものだ。
正確にいうと、ポーカーの勝負自体はトントンだったはずだが、「不法就労のお目こぼし」とか訳の分らない因縁をつけて結局取り上げてしまったバニラビーンズだった。


「うん。見た感じバニラだと思ったんだけど、新種なのかな。心持ち太いし、香りもぜんぜん強い。」


司厨長は瓶を持ち上げて、中に詰まった豆を仰ぎ見る。


「ま、おかげでイイモノが作れたよ。こんな良いバニラビーンズをくれるなんて、あの不良錬金術師もたまには役に立つ。」

「ひどいことをいいますね…。でも、実際ロベルト船長が錬金術で作ったものだったりするんじゃないですか?」

「怪しい薬だったり?」

「ほれ薬とか?」

「「エロベルト本郷特製下着を脱ぎたくなる薬」とかね」

「あはっ」


「さ、冗談はおしまい。午後には出港してしまうみたいだったから、それまでに持っていって。伝言を忘れないようにね」

「はい」


「あと、僕はこれからギャレーに篭るから、僕らの出航は「気が向いたら召集掛ける」ってエドガーに伝えて。それまでみんな自由時間に」

「…アイサー」


司厨長の気まぐれはいつものことだが、それに呆れてしまったが故に、僕はひとつの可能性に気づくことが出来なかった。
そう、その冗談が真実と共にあったという危険な可能性に。


To be continued
& go back...?
PR
─マリア。お客様の食器をお下げして。


少しお邪魔しますね。ああ、どうぞ座ったままで。
食事は楽しんで戴けましたか?



良かった。
このGoat's Ariaの客人として迎え入れたからには、食事の質だけは満足してもらわないとね。
食後はお酒を?それとも紅茶?



蒸留酒なら、自家製ですがブランデーかラムが。



──戻ったついでに、ブランデーとグラスを。うん、二つお願い。


っと、失礼。
御挨拶が遅くなりましたが、当船の司厨長を勤める中也といいます。
滞在中に不便があれば、僕か船長のエドガーか、このマリアに。



ええ、よく聞かれますが。僕は船の持ち主で、海上では船員の一人です。
確かにわがままを通したりは出来ますが。



そうですね、珍しいかもしれません。
でも、能力のある人に任せちゃうほうがいいと思いません?
僕は調理しかできないし、海戦も航海術もからきしなんです。

あ、それで思い出した。

ウチのボスから聞いてる筈ですが、念のため確認させてください。
僕が約束できるのは「この船はなんとなくカリカット方面を目指していて、いつかカリカットに到着する日まで、この部屋の中は貴方の自由」それと「乗船中の美味しい食事」の二つだけです。
よろしいですか?



よかった。
まあ、そういうわけで安全とかスピードは御約束できませんが、食事だけは楽しんでってください。好みとかあれば合わせますので、お気軽に。

──ああ、ありがとう、後は僕がやっとくから休んでいいよ。
──っと、まった。エドガーに「あと宜しく!」って。うん。ちゃんと親指立てるんだよ。そうそう。

どうぞ。自慢の逸品とまでは行きませんが、それなりの出来ですよ。



ええ、さっき言ったとおり、僕は能無しですから。船が動き出したら、することも特にないのです。



ところで、何でこの船に?



いえ、普通にカリカット行きの船なら、同じ商会でも朝凪提督の艦隊あたりをウチのボスなら紹介するだろうと。
何かおかしな条件でも出されてない限りは、僕の船が紹介されることはないと思うので。



ほう、小説ですか…。



いえ、マロリーとかは、僕も読んでますから。
確かにそういったものを下賎な趣味だという考え方があるのは知ってます。特に僕らの母国では…ね。
でも、戯曲が良くて、なんで小説が駄目なんでしょうね?







なるほど、そういうものですか。難しいものですね。
で、小説と僕の船になにか関係が?






あははは!それは僕が推薦されるわけだ。
流石、我らが商会長。よく見てる。



いえいえ、本当にうってつけだと思いますよ。我らがGoat's Ariaなら。
「速度より、居住環境」「寄り道がおおく、時折スリリングな体験」ね。
くっくっく。これは傑作だ。



ちょっと、スリリングすぎることもあるでしょうけど、御希望はかなえられるのでは、と思います。ええ。



まあ、昼に何もない日があったら、少しずつ昔あった面白い話でもいたしましょうか?僕も船の上では暇していますから。



ええ、僕みたいにプラプラしている船乗りは海の神に嫌われるみたいで、よく良くわからない天罰が時々振ってきますよ。
でも、今日は旅立ちで神経も高ぶってらっしゃるでしょうから、これで失礼して、その話は、また明日といたしましょう。

眠れないようでしたら、甲板員には伝えてありますから、デッキに上がられるのも御自由です。掌帆長のフェデリコ・ガルシアに声をかけてもらえれば、一人甲板員をつけてもらえるようになってます。



いえいえ、ボスから預かった大事なお客様ですから。
僕が言うのも変ですが、良い航海を。
では、おやすみなさい。
プロフィール
中也
大航海時代Onlineの世界を遊びまわるぐうたら調理師・中也の落書き場所。

リンクは非歓迎と意思表示だけしておきますが、リンクされても文句は言いません。
最新コメント
最新トラックバック
QRコード
アクセス解析
ダイモン
その1 その2 私のダイモン
Template by MY HEALING ☆彡
忍者ブログ [PR]