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Side story of "Chuya's Cooking diary"
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Rainer Maria
オーストリア人。Goat'sAria号の司厨員見習い兼雑用係。
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Federico García
イスパニア人。男。Goat'sAria号の掌帆長。
航海士の中では一番の古参。2号艦Aria of bygone daysが航行する際にはその船長を務める。
Edgar Allan

英国人。男。Goat'sAria号の船長。
オーナーの気まぐれに悩まされつつ無茶な航海をまとめる苦労人。
「マリア、こいつをレヴィローズさんの"Sablier de temps"号まで届けてくれ。」


竈から取り出した平底の陶磁器をあごで指し示すと、司厨長は調理道具の片付けにとりかかる。どうやらスポンジケーキが焼きあがったところらしい。


「はい、あ、片付けはやりますから休んでてください」

「へーき、へーき。それより後ろからバスケットだして」

「はい」


バスケットを取り出しながら作業台に目をやると、なんだか香料や調味料の量が多い。
<目と腕で作るシンプルな美味しさ>が信条の彼は、こういう凝った味付けを嫌うはずなのだが…。


「これ、スポンジケーキ、ですよね…。なんか、珍しいですね、そんなに調味料だの香料だのを用意するなんて」

「お、いい着眼点だ。」


こういう「気づき」を司厨長は喜ぶ。気づく事=その前段階までの技術を自分の物に出来ている証、なんだそうだ。


「ちょっとね、仕掛けをしてみたんだ」

「仕掛け…」


ケーキの表面をみると、焼き色が縞模様になっている。
焼きムラにしては、縞模様の並びが綺麗過ぎるし、司厨長がそんなデキのものをつくるはずもない。。


(だとすると……)

「…もしかして、生地の種類を変えているのですか?」

「ご名答。ちょっとづつ違う味になるようにね」

「なるほど…」


(ふぅ…、わかってはいるけどかなわないね、やっぱり)


シンプルに見えて豪勢。へそ曲がりな司厨長っぽいお祝いの仕方だ。見えないように苦笑もらし、ナプキンを敷いたバスケットに器をそっと入れる。


「で、司厨長。カードは?」

「カードって?」

「レヴィローズ提督宛ってことは、ミス・リオ受賞のお祝いですよね。」

「うん」

「じゃあ、普通、「おめでとう」とかメッセージいれたグリーティングカードぐらいいれておくものじゃないですか?」

「んー、大食らいのナタルさんが相手なら、僕も「カクカクシカジカのありがたい調理品だから、味わって食え!」って書いておくけど、レヴィさんなら普通に味わって食ってくれるからいらないよ」

「いや、慶事の常識ってモンがあるだろって話をしてるんですが!」

「あの人も調理の心得があるひとだし、特別に作ったもんだってのは分ってくれるし、それで伝わるからいいよ。」

「はぁ…」


ため息をつくとナプキンをもう一枚取りだす。
バスケットの上にナプキンを被せ、その上から蓋をはめ込み密閉する。

料理だけじゃなくて、もうちょっと世辞的なことにも長けてくれれば、こんな海暮らしじゃなくて、宮仕えの調理師として富と名声はほしいままにできるだろうといつも思う。
まあ、そんなことをこのお気楽な調理師が望んではいないことは分ってはいるのだが…


「でだ、伝言も一緒にお願い。「食べる前にこれを刷毛で塗って、少し竈であっためてから食べて」って伝えて」


小さな小瓶を差し出してくる。


「はい、分りました。でも、これは?」


受け取った瓶を眺めるとトロリとした液体がいれられている。ケーキ用のソースだろうか?


「ちょとあけてごらん?」

「うわっ……」


瓶をあけたボクを、不思議な香りが包む。
甘い、目が眩むような強烈な甘い香り…


(バニラ…?いや、もっと甘い… 瓶の中に吸い込まれそうな… 甘い甘い香り……)



「へへ。いい匂いだろ?」


投げかけられた声に我に返ると、司厨長はニヤニヤと笑みを浮かべながら、ボクの顔を見つめている。


「はっ、はい…。これは…バニラですか?」

「多分、ね」

「多分?」

「うん、ほらソレ。」


司厨長は作業代に置かれたガラス製の細長い瓶を指差す。


「ああ、ロベルト本郷船長から巻き上げたバニラビーンズですね。」


その瓶の緑色の輝きに見覚えがあった。
リオデジャネイロのお祭りの際に、司厨長が彼からポーカーのかたに取り上げたものだ。
正確にいうと、ポーカーの勝負自体はトントンだったはずだが、「不法就労のお目こぼし」とか訳の分らない因縁をつけて結局取り上げてしまったバニラビーンズだった。


「うん。見た感じバニラだと思ったんだけど、新種なのかな。心持ち太いし、香りもぜんぜん強い。」


司厨長は瓶を持ち上げて、中に詰まった豆を仰ぎ見る。


「ま、おかげでイイモノが作れたよ。こんな良いバニラビーンズをくれるなんて、あの不良錬金術師もたまには役に立つ。」

「ひどいことをいいますね…。でも、実際ロベルト船長が錬金術で作ったものだったりするんじゃないですか?」

「怪しい薬だったり?」

「ほれ薬とか?」

「「エロベルト本郷特製下着を脱ぎたくなる薬」とかね」

「あはっ」


「さ、冗談はおしまい。午後には出港してしまうみたいだったから、それまでに持っていって。伝言を忘れないようにね」

「はい」


「あと、僕はこれからギャレーに篭るから、僕らの出航は「気が向いたら召集掛ける」ってエドガーに伝えて。それまでみんな自由時間に」

「…アイサー」


司厨長の気まぐれはいつものことだが、それに呆れてしまったが故に、僕はひとつの可能性に気づくことが出来なかった。
そう、その冗談が真実と共にあったという危険な可能性に。


To be continued
& go back...?
肉塊。


ボルドーでフェデリコが仕入れてきた雌羊。
手にした包丁を振り上げ、一気に振り下ろす。

ゴトリ、と音を立て肉塊が二つに割れる。

切り分けられた肉塊の真ん中に太い骨の断面が見える。
長く生きた雌牛だ。最近は骨の切り口でその獣がどんな生き方をしたかが分るようになった。


切り口で獣と会話し用途を決める。生業としての使命もないわけではないが、肉を骨ごと切る、ただ、その単純な行為を中也は好いた。

包丁を振り上げ、振り下ろす。何かを得ようと思ってしているわけではない。ただ、無心に肉塊と向かい合う。

細かくなった肉は、用途ごとに用意した木桶に放り込む。
そして、また別な肉塊を引き摺り出す。


一刻も続けていると、汗で包丁が握れなくなる。傍らに用意してある海水を貯めた桶に包丁ごと腕を差し入れる。

海水に浸したままそっと腕を振る。
桶の中に、かすかな白い花が咲き、そして、ふわりと消えてゆく。
自らの腕の汗と、包丁についた獣脂。

自己と他者の命が海の中で交わり見せる一瞬の輝き。

獣への憐憫でも労働の達成感でもなく、ただ腕を振りながら、浮かんでは消えていく花を見つめる。
見つめるのに飽きると、また包丁を振り上げ、振り下ろす。


いつからか、中也が肉塊と向かい合うときには、誰も厨房に入らなくなった。別に禁じているわけでもないが、自然とそうなった。

ただ一人、見習いに付けているマリアだけは、報告や連絡の為に部屋に入ってくる。
緊急の用であっても声は掛けてこない。中也が包丁を振り上げるのをやめ、振り返るのをひたすら待つ。

こういう時のマリアは微妙に気配を感じさせる。存在を主張するわけでもなく、消しきるわけでもなく、中途半端な存在感を背中越しに投げかけてくる。五月蝿く感じるときもあれば、心地よいときもある。

そして、今、マリアがそうして自分の背中を見つめているのは分っている。だが、中也は振り返らない。桶の中に咲く花をぼんやりと見続けている。


天井の上、デッキの足音がいつもより騒がしい。

襲撃。

知ったことか。

中也はまた、包丁を振り上げた。



プロフィール
中也
大航海時代Onlineの世界を遊びまわるぐうたら調理師・中也の落書き場所。

リンクは非歓迎と意思表示だけしておきますが、リンクされても文句は言いません。
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