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Side story of "Chuya's Cooking diary"
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肉塊。


ボルドーでフェデリコが仕入れてきた雌羊。
手にした包丁を振り上げ、一気に振り下ろす。

ゴトリ、と音を立て肉塊が二つに割れる。

切り分けられた肉塊の真ん中に太い骨の断面が見える。
長く生きた雌牛だ。最近は骨の切り口でその獣がどんな生き方をしたかが分るようになった。


切り口で獣と会話し用途を決める。生業としての使命もないわけではないが、肉を骨ごと切る、ただ、その単純な行為を中也は好いた。

包丁を振り上げ、振り下ろす。何かを得ようと思ってしているわけではない。ただ、無心に肉塊と向かい合う。

細かくなった肉は、用途ごとに用意した木桶に放り込む。
そして、また別な肉塊を引き摺り出す。


一刻も続けていると、汗で包丁が握れなくなる。傍らに用意してある海水を貯めた桶に包丁ごと腕を差し入れる。

海水に浸したままそっと腕を振る。
桶の中に、かすかな白い花が咲き、そして、ふわりと消えてゆく。
自らの腕の汗と、包丁についた獣脂。

自己と他者の命が海の中で交わり見せる一瞬の輝き。

獣への憐憫でも労働の達成感でもなく、ただ腕を振りながら、浮かんでは消えていく花を見つめる。
見つめるのに飽きると、また包丁を振り上げ、振り下ろす。


いつからか、中也が肉塊と向かい合うときには、誰も厨房に入らなくなった。別に禁じているわけでもないが、自然とそうなった。

ただ一人、見習いに付けているマリアだけは、報告や連絡の為に部屋に入ってくる。
緊急の用であっても声は掛けてこない。中也が包丁を振り上げるのをやめ、振り返るのをひたすら待つ。

こういう時のマリアは微妙に気配を感じさせる。存在を主張するわけでもなく、消しきるわけでもなく、中途半端な存在感を背中越しに投げかけてくる。五月蝿く感じるときもあれば、心地よいときもある。

そして、今、マリアがそうして自分の背中を見つめているのは分っている。だが、中也は振り返らない。桶の中に咲く花をぼんやりと見続けている。


天井の上、デッキの足音がいつもより騒がしい。

襲撃。

知ったことか。

中也はまた、包丁を振り上げた。




某大御所っぽくなんか書いてみよーと思ったのですが上手くいかず、ボツ。

というか、このまま書いていくと「腋の下の汗を拭わす」→「劣情を感じ押し倒す」→「気をやると同時に首を刎ねた」→「咆哮」→「躍り込んできた一人目を、無造作に包丁で切断した」→「咆哮」→「海水を溜めた手桶が欲しい」→「咆哮」→「捕縛」→「拷問」→「海水を溜めた手桶が欲しい」→「解放」→「俺は奴に用がある」→「咆哮」→「咆哮」→「咆哮」→「咆哮」とかいう展開になってしまいそうで、書きたいことにたどり着けそうもありませんでした(笑)

やっぱ駄目だ。北方文体は厨房には使いこなせません。
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中也
大航海時代Onlineの世界を遊びまわるぐうたら調理師・中也の落書き場所。

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